シェイクビートと「スメルズ〜」の功績

これは僕の個人的な私見・思い込みだと思って読んで欲しいのだが、ニルヴァーナの代表曲「smels like teen spirit」の最も偉大な点は歌詞でもリフでもなく、リズムだと思っている。つまり、デイブ・グロールのドラムだ。
 「スメルズ〜」のようなドラムパターンを日本では「シェイクビート」という。普通の8ビートの合間にスキップするような「スタッタ」という合いの手が入るリズムパターンだ。直線的な8ビートに合いの手を入れているから、シェイク(混ぜる)というのだろう。
 デイヴ・グロール(Dr)本人がどこまで意識していたか知らないが、「スメルズ〜」以前の白人ロック/ポップでこのリズムを採用している曲は非常に少ない。

それまでの白人ロック・ポップスと言えば、ストーンズだろうとビージーズだろうとマドンナだろうと基本は8ビートや2ビート、16ビートやシャッフルを使うのが普通だった。レッド・ツェッペリンのボンゾ(Dr)は変わった拍子でリズムを取る人だったが、それでもシェイクビートの曲があったかは微妙だ。
 だから「ネバーマインド」を初めて聞いた当時の人々は、1曲目の「スメルズ〜」の前奏でいきなり度肝を抜かれたはずだ。「なんだこのノリは・・・」と。
 全く未知のリズムではなかっただろうが、ああいった破壊的なサウンドにシェイクビートを重ねるというセンスは、かなり強烈なインパクトを与えたと思う。


 ちなみにこの「シェイクビート」というのは和製英語である。外国製のドラムマシーンなどでこのリズムを選ぶと、「funk」と表記される。しかしファンクの帝王・ジェイムズ・ブラウンの曲に似たようなリズムの曲があるかといえば・・・探せばあるのだろうが、僕は知らない。
 スライ&ザ・ファミリーストーン、パーラメント、アースウィンド&ザ・ファイア、クール&ザ・ギャング、プリンス・・・それなりに黒人音楽もしくはファンクミュージックを聴いて来たつもりなのだが・・・すぐには思いつかない。
 強いて言えばレッドホット・チリ・ペッパーズの「Knock me down」(89年)のサビがそれっぽいが、フリーのベースが補ってそう聞こえるという感が否めない。
 当のカート・コバーン自身は「スメルズ〜」を、ボストンの「more than feeling」のリフとそっくりだと思っていたらしいが(実際、ライヴでは「スメルズ〜」の前にウケ狙いでこの曲を弾いたりしていた)、似ているのはカッティングのギターリフだけで、リズムはそこまで印象的ではない。そんなこと言ったら、Jガイルズ・バンドの「堕ちた天使」だって似ていると言えば似ているのである。
 そんなわけで、「スメルズ〜」でデイヴ・グロールがやっているようなシェイクビートをニルヴァーナ以前のロック/ポップスで見つけるのはなかなか難しい。
しかし、「ニルヴァーナ後」だとすぐに見つかる。
 オアシスの「live forver」(‘94)、「Dont look back in anger」(95)「stand by me」(97)、グリーンデイ「When I come around」(‘94)、スキッドロウ「breaking down」(‘95)、グーグー・ドールズ「Naked」(‘96)、ハンソンの「きらめき★mmm bop」(‘97・・・
 とまあ、90年代だけでも100曲くらい余裕で挙げられるのである。そしてどれも大体、ラジオ向きのいい曲なのである。

 つまり、「スメルズ〜」が残した最大の功績とは、シェイクビート=売れ線という方程式を生み出したことなのではないか。「スメルズ〜」がなかったら、ノエル・ギャラガーは数々の名曲を作らなかったかもしれない。
 あんなに売れることに拒絶反応を示していた男の作った曲が次の時代の音楽のトレンドになるとは・・・皮肉と言えば皮肉な話である。

本文に戻る⇒





    



産廃 許可 行政書士