和洋問わず、ある程度名の知れたギタリストに「誰に影響されたか」という質問をすると、まぁたいがいこの3人の名前が返ってくるだろう。逆に言えば、この3人の名前を挙げておけば間違いがないというか、「わかってるねぇ・・・」てな調子になる。
ギタリストにとっての憧れであり、神様的存在の3人の名はエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ。
3人とも60年代中期にヤードバーズというバンドに在籍していた。
ところが、ヤードバーズというバンドはそれほど凄い3人のギタリストを輩出したにもかかわらず、たいした商業的成功はおさめなかった。
「うまい」という評判だけはあったが、まぁ、それだけで、ビートルズやストーンズのような女の子にキャーキャー言われるタイプのバンドではなかった。
今も、ヤードバーズを熱心に聴く人はどちらかというと、このバンドの曲を楽しむというより、この3人が世に出てきた当時、どんな演奏をしていたのかといった、3人の根っこの部分を研究したいがために聴く人が多いのではないかと思う。
要するに3人ともヤードバーズ時代では、ただの「ギターがむっちゃうまい人」に留まっていて、彼らがその後独自の活動をしていなければ、3人は3大ギタリストなどというカリスマ的存在にはなりえなかったのである。
3人が神様と呼ばれるようになったのは70年代の功績によるのだ。
ヤードバーズ時代から3人に共通していたのは、ブルースだった。
このロック史の第1話で触れているように、ブルースは黒人のものであったが、白人もブルースにとりつかれて白人なりのブルースをやりはじめる。
エルビス以降の「ロックバンド」でそれを最も追求し、また会得していたのが、ザ・ローリング・ストーンズだが、ストーンズが商業的にも大成功したのに比べて、ヤードバーズはそれほどでもなかった。ヤード・バーズは解散し、そして、3人はそれぞれの道を歩き出す。
エリック・クラプトンはクリームというバンドを結成、ジェフ・ベックはジェフ・ベック・グループを、そしてジミー・ペイジはレッド・ツェッペリンを結成する。クリームが一番早く、ベックとペイジは60年代も終わりに近づいた頃だった。
彼らがこの新しいバンドでやってみせたのはブルースを主体とした、とてつもなくパワフルで劇的なロックだった。要するに、「ハードロック」と呼ばれるジャンルの土台を作ったのである。
そして、70年代はハードロックの黄金時代を迎えることになる。
3人は3様であり、その後はもっともっと3人はそれぞれの方向へと離れていってしまうのだけど、なぜ、このバカうまい3人のギタリストが揃いも揃って、ハードな方向へ向かったのかは考えてみると面白い。
個人的には、あの若くして逝ってしまった天才ギタリスト、ジミ・ヘンドリクスの影響が大きいんじゃないかと思う。
ジミ・ヘンはご存知の通り黒人であった。ブルースに心酔している白人にとって、黒人にはコンプレックスがあるように思う。そこへもってきて、ジミ・ヘンはパワフルでソウルフルな音を放っていた。ジミ・ヘンはギターを「弾いた」のではなく、ギターで叫び、歌い、あえぎ、泣いた。
ザ・フーのギタリストのピ−ト・タウンゼントがジミ・ヘンのライブを見た後クラプトンを呼び出し「すごい奴が出てきた、俺たちは失業に追い込まれちまう!」と相談したほどだ。
どれだけテクニックがあろうと、黒人のブルース・フィーリングを会得していても、ギター奏者本人の感情が吐露されていなければ、本物のギタリストとは言えない。
この3人はテクニックの上にその感情の吐露にいち早く気づき、ギターに歌わせ、喋らせ、あえがせ、泣かせることができた人たちなのではなかろうか。
ジミヘンの登場以降、彼ら三人が模索し、加工した、新しいギター主体のロック(ハード・ロック)の、重いリズムと「泣きのギター」は、当時のベトナム戦争や学生運動の敗北などといった、ヘヴィーな社会情勢と、抑圧された若者たちの内にこもったエネルギーを見事に晴らしたのだった。
第9話「ディープパープルとレッドツェッペリン」 続きを読む⇒
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