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5. ロックが芸術に目覚めたとき | The Velvet Under Ground |
60年代後期はヒッピー文化華盛りの時代であった。サンフランシスコを聖地とするヒッピー文化は西海岸を中心に世界各地に広がっていった。それはドラッグによる人間の魂の開放、自由と平和を模索する「新しい生き方の実験」の時代であった。 ちょうど同じ頃、ヒッピー文化の中心とは位置的に対象となる東の大都会、ニューヨークでも、全く新しい「実験」が行われる。ロックの芸術性と表現の可能性への実験である。 「何か新しいことはないかい?」というのが当時の人々のあいさつとなっていたほど、誰もが新しいものを求め、つぎつぎと革新的な作品や文化が生み出された時代であった。 そんな時代の大立者として誰もが認めるのはアンディ・ウォーホルであろう。 ウォーホルは、商品として流通していた、ただの洗剤の箱をそっくりそのまま違う材質で作ってみせたり(『ブリロの箱』)、何種類もあるキャンベルスープの缶を商品棚にあるように100個も並べて描いて作品化し、いわゆる「ポップアート」なる新たな芸術分野を創造した。 その彼がロック界にも関与してきた。ウォーホルがプロデュースしたグループ、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの登場だ。芸術としてのロックの可能性がここで明確に提示されたのである。 ポップ・アートとは何か。 簡単に言えば、「ポップ」つまり大衆的なあらゆるもの、漫画、商品やその広告、有名人の写真など、日常我々が目にしているものから受けるイメージを形に表した芸術のことだ。まぁ、ルネッサンス絵画やモネなど印象派の画家が「お芸術」と思っている人には、ウォーホルやリキテンシュタインの作品は「何でこれが芸術なの?」と感じてしまうだろうが、そう感じることを逆に捉えれば、「こんなものでも芸術なんだ」と説得される。 ポップアートが「大衆的なものでも芸術になり得るんだ」という一つの可能性を与えてくれたおかげで、今までただの大衆的な音楽「ロック」のごときものでも、イメージを形にきちんと表せば、芸術になるんだ!という壮大な挑戦が始まっていったのだ。 ヴェルヴェット〜はウォーホルのプロデュースとは言え、音楽までウォーホルがやったわけではなく、むしろ、その音楽の見せ方、聴かせ方をプロデュースしたに過ぎない。 ダンサーや映像作家などが集まり、総合的なショーのチームをプロデュースしたのだと言った方が正しいだろう。そのショーには踊りがあり、目も眩むようなストロボを用いたり、幻覚的な色彩の交錯する映像を映して演出された。 ![]() 音だけでなく、ヴェルヴェット〜の中心メンバー、ルー・リードはアメリカの作家レイモンド・チャンドラーに影響を受けたと言っているように、詞も文学的なレベルを意識して作られていった。 しかし、ウォーホルというビッグネームのもとの話題性はあったにせよ、ヴェルヴェット〜は一部のインテリに支持されただけで、ほとんど大衆的には受け入れられずに70年に幕を下ろす。結果的には惨敗だったのだ。一発屋ですらない。 しかし、前回の3Jのひとり、ジム・モリソンもウィリアム・ブレイクやアレン・ギンズバーグといった作家や詩人に影響を受け、文学とロックの融合を試みているし、イギー・ポップはヴェルヴェッツに影響を受け、金粉を全身にまぶしてステージに上がった。 「芸術表現」を意識したこのような試みは60年代後期には既にチラホラ見られ、やがてこうした細い源流から出た流れが大きくこのあとの時代を覆ってゆくことになる。 そういった意味でヴェルヴェット〜の登場はロック史上大きな意味を持った事件であったし、60年代後期の「ロックの芸術性を模索した実験」を意識的に行った最初の者たちであったと言える。 続きを読む 「第6話 崩れゆく夢〜ウッドストック、ワイト島フェス」 |
![]() アンディ・ウォーホル ![]() ウォーホルのデザインによる アルバムジャケット ![]() 現代アートの傑作 ブリロの箱 ![]() ルー・リード ![]() リードはソロとして成功。 |
目次 | ||||||||
1.エルビス | 6.ウッドストック | 11.プログレ | 16.ニューウェーヴ | 21.グランジ | ||||
2.ビートルズ登場 | 7.グラムロック | 12.NYパンク | 17.ガールズポップ | 22.カートコバーンの死 | ||||
3.ボブ・ディラン |
8.三大ギタリスト | 13.セックスピストルズ | 18.ヘヴィメタル | 23.ブリットポップ(前) | ||||
4.狂宴の60年代 | 9.パープルとツェッペリン | 14.サントラ映画 | 19.LA.メタル | 24.ブリットポップ(後) | ||||
5.ロックと芸術 | 10.70年代ロックシーン | 15.産業ロック | 20.ガンズとメタリカ | 25. 多様化・細分化 |