10. 名盤続出時代 70年代ロックシーン 70's MUSIC

前回までの、ヤードバーズやクリーム、ツェッペリン、パープルなどと言うのは、あくまでもイギリスを中心としたロック・シーンである。同じ頃のアメリカは、まだまだイギリス程の、ガンガンな「ハードロック時代」には入っていなかった。ハード・ロックらしきものを演っていたのは、アリス・クーパーとストゥージズくらいだった。
 しかし、アメリカという国は凄い国で、ビートルズ以来からそうだが、ツェッペリンやパープル、ブラック・サバス等の、いわゆる「ブリティッシュ(英国の)・ハード・ロック」が、名盤、名曲を続出し、勢いに乗ってアメリカでも成功し出すと、それを一瞬でアメリカ流に加工し、それもただの模倣ではなく、進化させた形で、<ロックの自給自足システム>を作り上げてしまうのだ。
 早い話が、アメリカン・ハード・ロックの誕生だ。


 その啖呵を切って登場したのが、73年、後にあの「ヴァン・ヘイレン」の二代目ヴォーカリストとして加入する事になる、サミー・ヘイガーの居たモントローズだ。彼等はその名もズバリ「ハードショック!」(邦題)というアルバムでレコード・デビュー。そして同じ年のニューヨークで、今でも絶大な人気のある怪物バンド、エアロ・スミスが「翔べ!エアロ・スミス」でデビューする。一方イギリスでもクイーンがレコード・デビュー。

 さらにこの年に、ようやくヴェトナム戦争がアメリカの敗北によって終結。若者たちは、そんな敗北感と虚無感を晴らすように、パワフルで、破壊的なギターを馬鹿でかい音で鳴らすハード・ロックに熱狂した。その翌年の74年には、説明不要のど派手バンド、キッスがデビュー。彼等が放つ「レッツ・パーティー」(パーティしようぜ)という明快なメッセージは、さぞかし当時の若者たちを活気づけた事であろう。
 陰鬱なアジアでの戦争が終わり、今度は米英がしのぎを削る「ハード・ロック戦国時代」が始まったのである。

こうしてロックの歴史は、ハード・ロック全盛時代に突入するのだが、戦争終結で肩の荷が降り、「ゆっくりと、純粋に音楽を楽しみたい」と思う若者も多く存在した。当たり前だろう、それまでのロックには、様々な「理由」「使命」「目的」が結びついてきたのだ。ある時は「反戦」ある時は「自由」、又ある時は「芸術」というように・・・。
 ヒッピー・ブームもとっくに終わり、その運動の、最大の大義名分であったヴェトナム戦争も終わった。「使命」や「自由」「平和」・・。そんなものをもうロックと結びつける必要が無くなったのだ。落ち着いて聴ける、「普通のロック」を求めるのが自然である。しかし、そういう(今で言うところの)草食系の若者たちにはハード・ロックはチョットうるさ過ぎた。
 
そこで登場してきたのがイーグルスビリー・ジョエルジャクソン・ブラウンキャロル・キングブルース・スプリングスティーンエルトン・ジョントム・ペティといった、ムード感と情緒溢れるサウンドをハイ・クオリティーで表現できるバンドやアーティストだ。
 
 フォーク・ソングから政治性や説教臭い部分をとり除き、自己を投影できる物語性とシチュエーション(場面)をより強調した彼等の音楽は、上に書いたような若者たちのニーズにピッタリと合っていた。
 特に、イーグルスの「テイク・イット・イージー(気楽にやろうぜ)」(72年・イーグルス・ファースト収録)というフレーズは、そんな時代背景と、ロック・シーンへの呼びかけの様で、大いに若者の共感を得た。
 ちなみにこの「テイク・イット・イージー」はイーグルスのグレン・フライとジャクソン・ブラウンの共作である。(当時二人は同じアパートに住んでいた)


 しかし実際のところ、若者たちが音楽を純粋に求めたのは、ハードロックだろうとポップスだろうと変わらなかった。政治・信条・スタイル・イメージに関わらず、そのバンドやミュージシャンの曲やレコードが、「良けりゃ買う」という、凄くポジティブな動きに変わってくる。そうすると、本当に良い物は、驚異的に売れ出すのだ。
 例えば、ブラック・サバスの「パラノイド」(70年)は400万枚、エアロ・スミスの「闇夜のヘヴィー・ロック」(75年)は600万枚、キッスの2枚組ライブ盤「アライヴ」(75年)は400万枚、イーグルス「ホテル・カリフォルニア」(76年)は900万枚、この他にも、ウンザリするほど70年代には「ミリオン・セラー」アルバムがゴロゴロしている。

 70年代に「名盤」と言われるレコードが多いのは、大衆の音楽に求める質の高さを、送り手が見事にクリアし、提示する事が出来たからだろう。受け手の「耳」と、送り手の「腕」。双方の音楽的バランスが完璧だったのだ。

 レコードが売れると、当然、コンサート会場に足を運ぶ人間も増える。「ライブを観て、ただ思いっきり楽しみたい」そんな欲求が若者たちに高まって来たのだ。ライブ・ハウスからホールへ、ホールから野外へ、野外から野球場へ、野球場からスタジアムへ・・・。どんどん箱は巨大化していった。しかしキッスやエアロ・スミス、クイーンなどのパワフルで、ド迫力なステージは、そんな巨大化した箱でも難なくファンを満足させる事が出来たのだった。

 その他のバンドも、箱の巨大化に伴って、あらゆる創意工夫をした。ステージ・セットを大きくしたり、ハシゴを設けたり、花火や爆発を見せたり、巨大な男性器型風船を膨らませたり、紙吹雪を吹かせたり・・・。
 箱の巨大化という問題も、アーティストたちはよりダイナミックで、スケールの大きい楽曲やパフォーマンスを見せることでクリアしたのである。

第11話「プログレッシブ・ロック」 続きを読む⇒



モントローズ



エアロスミス




KISS「アライヴ!」




イーグルスのデビュー作
「テイク・イット・イージー」



キャロル・キング
「つづれおり」


ビリー・ジョエル
「ニューヨーク52番街」



トム・ペティ




ド派手な衣装に身を包む
エルトン・ジョン



ギターから煙を出す
エース・フレーリー(キッス)



    



産廃 許可 行政書士