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9. ディープ・パープルとレッド・ツェッペリン | |
![]() 「レッドツェッペリンT」 ![]() パープル「イン・ロック」 ![]() 名曲「天国への階段」収録 の「レッド・ツェッペリンW」 ![]() パープル後期の名盤 「マシーン・ヘッド」 ![]() ディープパープル 「ライブ・イン・ジャパン」 ![]() リッチー・ブラックモア |
![]() 特に彼等三人の地元イギリスでは、空前のハード・ロック・ムーブメントが巻き起こったのだった。女の子はデビッド・ボウイに、男の子はクリームやツェッペリンに、当時のイギリスはそんな感じだったのではないだろうか。 そしてそんなハード・ロック・ブームが、眠っていた一つの巨大な怪物バンドを目覚めさせることになる。その怪物バンドは、60年代はかったるい、クラシックを土台にしたムード・ミュージック(の様なもの)を演奏していたのだが、レッド・ツェッペリンを筆頭とする、ハード・ロックの台頭により、70年発表の「イン・ロック」で、彼等はハード・ロックに転向するのだった。 彼らの名はディープ・パープル・・・。 日本では恐らく、レッド・ツェッペリンより知名度が高いと思われるこのバンドの特徴は、「速い」「うるさい」「上手い」「大げさ」「分かり易い」に尽きるのではないだろうか。これらの要素が、正当派気取りのお堅いロック雑誌やヒストリーもののビデオでは「幼稚」と見なされ、完全黙殺されることもなきにしもあらずだが、同じハード・ロックのパイオニアであるレッド・ツェッペリンの方が正統と見なす理由は、特にロックの歴史を語る時などには、全く無いはずである。 ディープ・パープルより1年早く「レッド・ツェッペリンT」で、レコード・デビューしていたツェッペリンは、ロバート・プラントという、稀代のシンガーをヴォーカルに据え、ロック・ヴォーカルの新たな様式を提示していた。 それまでの男性ロック・シンガーの歌唱法は、(極端に言うと)ストーンズのミック・ジャガーの様に粘っこく、イヤらしく唄うか、ザ・フーのロジャー・ダルトリーの様に、握りコブシ作りながら怒ったように唄うかの、どちらかだった。ロバート・プラントのヴォーカル・スタイルは、ブルースを基礎に持ちながら、激しく、かん高く、その上伸びの有る、力強いものだった。 そんな、まだチッポケなライブ・ハウスに出ていたロバート・プラントの歌声を聴いて、「金儲けしたいか?」とスカウトしたジミー・ペイジの直感も凄いが、確かに彼の歌声は、「よりハードなロックがやりたい」というぼやけた構想を抱えていたジミー・ペイジの頭に、電流を流し、新たなロックの輪郭を浮き上がらせるものだった。 ロバート・プラントのヴォーカル・スタイルをさらに過激に、さらにカン高くしたのがディープ・パープルのイアン・ギランである。 こう言うと、「ディープ・パープルはツェッペリンの二番煎じ」という風に捉われかねないが、音楽的にこの二つのバンドは全く違う。今でこそ「ハード・ロックの二大バンド」として一緒にされているが、パープルが「分かり易い」のに対して、ツェッペリンはハッキリ言って「玄人向け」である。ロバート・プラント自身、「俺たちはメタルじゃない」という理由としても挙げていることだが、ツェッペリンはパープルに比べ、圧倒的にアコースティックの曲が多い。 ![]() 一方パープルは、缶コーヒーのCMやキムタクが出演するハウスメーカーのCMにも楽曲が使われているように、キャッチーで覚え易くて、商品として完成された曲が多い。その上、ロック・ファンならずとも、一発で「ガーン」と来るような「カッコよさ」がある。 その「カッコよさ」は、「リフ」のカッコよさに尽きる、と言っても過言ではない。 「リフ」とは、曲の背骨になる様な、一本調子のメロディーを、主にギターやピアノ等で奏でたメロディ(フレーズ)のこと。ツェッペリンの「リフ」も格好いいが、インパクトが違うのだ。そのうえパープルの、スピード感溢れる破壊的なノリもツェッペリンとは違う魅力を生み出している。 さらに、「速弾きの神様」リッチー・ブラックモアのギターも忘れてはならない。 彼の超人的な「速弾き」は、当時のギター少年達のハートを鷲掴みにし、後に「上手い=速い」という、ちょっと間違った定義まで生み出すにいたる。リッチー・ブラックモアの登場によって、ロック・ギター奏法に「速弾き」という新たなるスタイルが生まれた。そして現在にいたるまで、リッチーのギターリフおよび速弾きは、全ギター少年達のお手本であり続けている。 ツェッペリンとパープル、どっちが凄いか、どっちが人気があったかなんて、ロックの歴史を語る上では何の意味も持たない、何の資料にもならないものだ。 僕は、パープルを無視してツェッペリンだけを意味のあるバンドと捉える、正統派気取りのロック評論家、歴史書・ビデオ等に違和感を感じるから、この「ロック史」でもパープルを取り上げようと最初から決めていた。その理由は、上にも書いたが、ツェッペリンが正統派でパープルは違うと決め付ける根拠は何処にも無いからである。僕はパープルも、ツェッペリンと同様、一つの時代を築いたと思うし、その後のロックにも大いに影響を与えたと思っている。 向田邦子の古いテレビ・ドラマかなんかで、こういうシーンがあった。親が息子を呼ぶのだが、息子がなかなか部屋から出てこない。しびれを切らした母親が息子の部屋に入ると、息子は頭を振りながら、ヘッドホンで音楽を聴いている。怒った母親がヘッド・ホンのプラグを抜くと、爆音でディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」が流れる。 だから何だ?と思うかも知れないが、それがツェッペリンではなく、パープルという所がいいではないか!そう、パープルは当時、親が「うるさい」と思う象徴的なバンドだったのだ。つまり当時の親がイメージする「ロック」とはパープルだったのである。 僕はそういう点からも、パープルの存在は重要だと思う。 続きを読む「第10話 名盤続出時代〜70年代のロックシーン〜」 |